民法改正と保証契約に関する留意点を簡単に

2020年に改正民法が施行され、既に1年が経過しました。

金銭消費貸借契約や保証契約に関する社内の雛形を改正民法に合わせて修正された企業の方も多いと思います。

他方で、2021年に入ってからも、改正民法に十分に対応していない保証契約を目にすることがあります。

そこで、本記事では民法改正と保証契約に関する留意点を解説したいと思います。

なお、本記事に関するご不明点等につきましては、こちらのお問合せフォームから、お気軽にご相談ください。

※ なお、本記事における留意点は、債権者の立場からの留意点になる点、ご注意ください。

この記事を書いた人
渡瀬・國松法律事務所

東京都江東区所在の法律事務所
主に顧問弁護士のいないスタートアップや中小企業,フリーランスの方を対象に,事業規模等に応じた金額にてスポットでの契約書ドラフト/レビューのサービスを提供

保証契約に関する民法改正のポイント(概要)

保証契約に関する民法改正の主要なポイントは、次の4点です。

  • 包括根保証禁止の対象拡大
  • 事業用融資における第三者個人保証の制限
  • 保証人に対する情報提供義務
  • 保証債務の付従性に関連する規定の整備

以下、順に検討していきます。

改正民法と保証契約①包括根保証禁止の対象拡大

2020年の民法改正前、個人根保証のうち、主債務に貸金等債務が含まれる保証契約については、保証の上限額(=極度額)を定めなければ無効とされていました。

これに対し、家賃債務保証などの主債務に貸金等債務が含まれない保証契約については、そのような規律はありませんでした。

民法改正では、この点が変更されました。

個人根保証一般について、極度額を定めなければ無効とされることになりました(改正民法第465条の2第2項)。

個人に不特定の債務を主債務とする保証契約を締結しようとする場合には、忘れず上限額を定める必要があります。

※ なお、個人根保証とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって保証人が法人でないものを指すと定義されています。

改正民法と保証契約②事業用融資における第三者個人保証の制限

改正民法では「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」について、契約の効力が生じないケースが新設されました。

具体的には、保証人が個人となる場合は、保証人になろうとする者が、その締結前1か月以内に公正証書でその旨の意思を表示しなければ契約の効力は生じないこととされています(民法第465条の6)。

もっとも、この規律には以下のような例外も用意されている点に留意する必要があります。

事業用融資における個人保証の制限(例外)主債務者が法人の場合

主債務者が法人の場合、保証人になろうとする者が取締役等に該当する場合には、改正民法の下でも公正証書を作成しなくても、保証契約は有効になると考えられます。

取締役以外であっても、次のいずれかに該当する場合には、公正証書を作成しなくても保証契約が有効になります(改正民法第465条の9第1号及び第2号)。

  1. その理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
  2. 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を有する者
  3. 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
  4. 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
  5. 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合における2.〜4.に掲げる者に準ずる者

事業用融資における個人保証の制限(例外)主債務者が個人の場合

主債務者が個人の場合、保証人になろうとする者が、次のいずれかに該当する場合には、改正民法の下でも公正証書を作成しなくても、保証契約は有効になると考えられます。

  1. 主たる債務者と共同して事業を行う者
  2. 主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者

民法改正を踏まえた保証契約の修正案

改正民法の「事業用融資における第三者個人保証の制限」を考慮すると、保証契約締結の際には、次の点に留意する必要があるといえます。

まず、上記例外に該当する可能性が乏しい場合、公正証書によって保証意思を確認する必要があります。

また、上記例外に該当する可能性が高い場合であっても、次の対応をとる必要があると考えます。

  • 上記例外に該当する旨を表明保証事項の対象とする。
  • その該当性を証する客観的資料の提出を(保証の対象となる)貸付実行の前提条件とする。

改正民法と保証契約③保証人に対する情報提供義務

改正民法では、次の情報提供義務が新設されました。

  • 債権者による保証人に対する情報提供義務
  • 主債務者による保証人に対する情報提供義務

以下、順に検討します。

改正民法下での債権者による情報提供義務

債権者による情報提供義務は、保証人の請求に応じる形で受動的に履行すべきものと、主債務者が期限の利益を喪失した場合に主体的に履行すべきものがあります。

受動的義務

改正民法には、次の規定が用意されました。

保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

改正民法第458条の2

債権者は、保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした者に該当する場合には、保証人の情報提供要請に応じなければならないことになります。

保証人が個人であろうと、法人であろうと、この情報提供義務を果たす必要があります。

主体的義務

また、改正民法では、保証人保護の観点から、債権者に対し、主債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務を課しています。

具体的には、債権者は、保証人に対し、主債務者の期限の利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならないとされています(改正民法第458条の3)。

改正民法下での主債務者による情報提供義務

上記の債権者の情報提供義務に加え、改正民法は主債務者にも情報提供義務を課しています。

具体的には、次の情報を保証人に提供する必要があるとされています。

  • 財産及び収支の状況
  • 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
  • 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

主債務者が、これらの情報を保証人に提供していない場合、改正民法の下では、保証人は保証契約を取り消すことができます。

ただし、債権者が、この情報不提供の事実を知ることができなかった場合には、この限りではありません。

民法改正を踏まえた保証契約の修正案

改正民法の「保証人に対する情報提供義務」を考慮すると、保証契約締結の際には、次の点に留意する必要があるといえます。

すなわち、主債務者と保証人のいずれに対しても、主債務者による情報提供が十分になされたことを表明保証させておく方が良いと考えられます。

改正民法と保証契約④保証債務の付従性に関連する規定の整備

改正民法では、保証債務の付従性に関連する規定も整備されました。

基本的には改正前の解釈に沿った規定の明確化が行われた形になっていますが、次の点には注意が必要です。

「連帯保証人に対する履行の請求は主債務者に対して効力を生じない」こととなった。

この改正により、契約上の手当をしないと、連帯保証人に対して履行の請求をしただけでは、主債務者との関係では時効が完成してしまう可能性が残ることになります。

したがって、これを避ける観点からは、債権者と主債務者との間で、連帯保証人に対する履行の請求の効力を絶対的効力とする旨の合意を行い、契約上も明記しておくことが必要と考えられます。

最後に

本記事では、民法改正が保証契約に与える影響について検討しました。

保証契約を締結しようとする際には、本記事を参照いただけますと幸いです。

なお、本記事に関するご不明点等につきましては、こちらのお問合せフォームから、お気軽にご相談ください。

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