Word雛形|顧客紹介の契約書

事業を運営していく上で、どうしても気になるのは、顧客を獲得する方法ではないでしょうか。

顧客を獲得する手段として「この人に取引先を紹介して欲しい。」「顧客を連れてきて欲しい。」と考えることも多いと思います。

本記事では、そのように考えた際に使える紹介契約の雛形を提供します。また、提供する雛形のアレンジ方法についても説明します。

なお、顧客の紹介に関する契約は、比較的トラブルが生じやすい契約類型であると考えられるため、時間や費用に余裕がある場合には、事前に弁護士に契約書のチェックを依頼しておく方が安全と考えられます。

本サイトを運営する渡瀬・國松法律事務所に契約書のチェックを依頼される場合には、こちらのページからお願いいたします。お見積りは無料ですので、お気軽にご相談ください。

この記事を書いた人
渡瀬・國松法律事務所

東京都江東区所在の法律事務所
主に顧問弁護士のいないスタートアップや中小企業,フリーランスの方を対象に,事業規模等に応じた金額にてスポットでの契約書ドラフト/レビューのサービスを提供

顧客紹介の契約書の雛形

はじめに、弁護士である本サイトの運営者が作成した紹介契約の雛形を載せます。

契約書ラボ_顧客紹介契約_ver.21.0

以下では、紹介契約の締結の際に考えなくてはならないいくつかの事項について解説した後、この雛形の内容とアレンジ方法をご説明します。(テンプレートの解説とアレンジ方法について知りたい方は最後の項目まで読み飛ばしてください。)

顧客紹介の契約書と印紙税

後ほど、上記のテンプレートの解説もいたしますが、まずは実際に雛形を使う際に気にしなければならない印紙税について解説します。

印紙税は、印紙税法に定められる課税文書に対して課されるものです。そして、顧客の紹介契約との関係で問題になるのは「請負に関する契約書」と「継続的取引の基本となる契約書」になると考えられます(印紙税法における印紙税額一覧表の第2号文書及び第7号文書)。

請負に関する契約書

「請負」とは、当事者の一方(請負人)がある仕事の完成を約し、相手方(注文者)がこれに報酬を支払うことを約束することによって成立する契約をいいます。そして、請負には建設工事のように有形的なもののほか、警備、機械保守、清掃などの役務の提供のように無形的な結果を目的とするものも含まれるとされています(国税庁タックスアンサーNo.7102)。

顧客の紹介に関する契約は、原則として、「仕事の完成」を約するようなものではないといえます。顧客の紹介という無形的な結果を目的としているようにみえますが、顧客紹介契約の多くでは、「顧客の紹介」という結果(仕事の完成)を約束しているものではないと考えられるからです。

したがって、顧客の紹介に関する契約が「請負に関する契約書」として課税される可能性は低いと考えます。

※ もっとも、この点については、個別のケースに応じて税理士の方にもご確認ください。

継続的取引の基本となる契約書

また、顧客の紹介に関する契約が「継続的取引の基本となる契約書」に該当する可能性も低いと考えます。

「継続的取引の基本となる契約書」とは、特定の相手方との間において継続的に生じる取引の基本となる契約書のうち次の文書をいい、具体的には次の3類型のいずれかに該当する文書のことを指します(国税庁タックスアンサーNo.7104)。

  1. 売買取引基本契約書や貨物運送基本契約書、下請基本契約書などのように、営業者間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する複数取引を継続的に行うため、その取引に共通する基本的な取引条件のうち、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうち1以上の事項を定める契約書
  2. 代理店契約書などのように、両当事者(営業者には限りません。)間において、売買に関する業務、金融機関の業務、保険募集の業務又は株式の発行若しくは名義書換の事務を継続して委託するため、その委託する業務又は事務の範囲又は対価の支払方法を定める契約書
  3. その他、金融、証券・商品取引、保険に関する基本契約のうち、一定のもの

顧客の紹介に関する契約は原則として、このいずれにも該当せず、「継続的取引の基本となる契約書」に該当する可能性は低いと考えます。

もっとも、顧客の紹介に関する契約とは言いながら、紹介だけではなく、顧客に対する請求業務等も委託する場合には、「売買に関する業務」を「継続して委託する」ものとして、「継続的取引の基本となる契約書」に該当する可能性もありますので、ご注意下さい(国税庁照会結果)。

電子契約と印紙税

最近、契約をクラウドサインなどを使って紙を使わずに契約したいという声をよく聞きますが、クラウドサインなどを使って電子契約を締結する場合には、印紙税は生じないと考えられています。

この根拠としてよく挙げられるのは、「印紙税に関する質問に対する答弁書」です。この答弁書において、次のような答弁がされています。

事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである

印紙税に関する質問に対する答弁書

また、国税庁も「コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い」というページにおいて次のような見解を公表しています。

請求書や領収書をファクシミリや電子メールにより貸付人に対して提出する場合には、実際に文書が交付されませんから、課税物件は存在しないこととなり、印紙税の課税原因は発生しません。

コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い

顧客紹介と手数料

取引先を紹介してもらう際に、最も気になるのは、紹介手数料(いわゆるマージンになります。)だと思います。

したがって、次は紹介手数料の定め方について解説します。

月額報酬制

紹介手数料について、まず考えられるのは、月額報酬制です。

月額報酬制は、毎月の報酬額があらかじめ確定しているため、当事者間で将来的に報酬に関する争いが生じる可能性が比較的低いというメリットがあります。

他方で、顧客の紹介実績がほとんどないにもかかわらず、契約の有効期間中継続して定額の報酬を払い続けなければならないといった事態が生じるリスクがあります。

変動報酬制

このリスクを回避する方法として考えられるのが、毎月の紹介実績に応じた変動報酬制です。

変動報酬制の設計としては、①紹介された顧客の人数に応じた報酬制と②紹介された顧客に対する売上高に応じた報酬制があると思います。

これらの変動報酬制は、いずれも紹介を依頼する人に対して、紹介業務を的確に遂行するインセンティブを与えることができるメリットがあります。

そして、②のような売上高に応じた報酬制を採用すれば、紹介から売上が生じた場合にだけ紹介手数料を支払えば足りることになるというメリットも享受できることになります。

もっとも、変動報酬制を採用する場合には、結果としての顧客獲得と、行為としての紹介業務の遂行との間の因果関係について、当事者間で争いが生じるリスクがある点には注意を要します。

紹介をした側は少しでも自分が関与すれば「自分がした業務のお陰で顧客が獲得できた」と主張するでしょうし、紹介を依頼した側は「紹介のおかげと言うよりは、むしろ他の要因でサービスを気に入って顧客になってくれた」と主張したくなるようなケースに遭遇することもあるでしょう。

したがって、変動報酬制を採用する場合には、この因果関係の判断基準を可能な限り明確化しておくことが求められます。

テンプレートの解説とアレンジ方法

顧客の紹介の定義など

顧客紹介の契約書において重要なのは「紹介手数料の発生対象とする業務の内容をどのように設定するか」です。

本サイトのテンプレートでは「紹介者の働きかけに起因して、依頼者が提供するサービスの購入を希望するに至り、依頼者の顧客となる合理的な可能性を有する者」の紹介としています。

したがって、紹介者の働きかけに起因せずに、紹介前から依頼者のサービスの購入を希望していた者を紹介しても、紹介したことにはなりません。また、当然ながら、依頼者のサービスに関して興味を有していないような第三者を依頼者に紹介したとしても、契約上、顧客の候補者を紹介したことにはなりません。

アレンジの方法としては、「紹介者の働きかけに起因して」という部分を削除して、紹介者の働きかけとは無関係に依頼者のサービスに興味をもっている人の紹介についても、顧客の候補者の紹介としてカウントすることが考えられます。

なお、本サイトのテンプレートでは、紹介の対象となるサービスについて、「依頼者が提供するサービス」と広く定めていますが、「依頼者が提供する●●という名称のサービス」などとして、対象を限定することも考えられます。

プロモーション活動の注意点

本サイトのテンプレートの2条では、紹介者によるプロモーション活動における注意点を定めています。

顧客の紹介契約においては、紹介者が、紹介手数料を欲するあまり、過剰なプロモーション活動を行なってしまい、依頼者自身や依頼者のサービスの評判を下げるような事態が生じるリスクがあります。本サイトでは、そのようなリスクを軽減するため、紹介者に対し、「(依頼者のサービスに関する)適切な説明」を行う義務を課すとともに、「依頼者および依頼者提供サービスの評判または信用を損うような行為」を禁止しています。

マージンの定め方

紹介手数料について、本サイトの雛形では、月額報酬制を定めています。そして、仮に紹介者が紹介に際して交通費などの費用を支出した場合であっても、当該費用を報酬とは別に依頼者に請求することはできないとしています。

固定月額報酬制ではなく、紹介された顧客の人数に応じた変動報酬制や、紹介された顧客に対する売上高に応じた報酬制などを採用する場合には、本サイトの雛形を適宜アレンジしてご利用いただく必要がある点、ご了承ください。

その他

紹介を他者に依頼する場合には、紹介だけではなく、他にも経営上のアドバイスなども依頼し、そのような紹介とアドバイスの代わりに、紹介やアドバイスの対象となった事業から生じた収益を分配しようとすることがあると思います。

そのような場合には、単なる顧客紹介契約ではなく、業務提携契約といった形の契約を締結することも考えられます。

業務提携契約については、こちらの記事にも記載しておりますので、ご参照ください

最後に

本記事では、顧客の紹介に関する契約書のアレンジ可能なテンプレートを提供するとともに、顧客の紹介契約における留意点を記載いたしました。

本記事が、広い人脈を持つ第三者に顧客の紹介を依頼し、事業を拡張する際の一助となることを願っています。

顧客の紹介以外に、コンサルティング業務も依頼される場合には、次の記事もご参照ください。

なお、顧客の紹介に関する契約は、比較的トラブルが生じやすい契約類型であると考えられるため、時間や費用に余裕がある場合には、事前に弁護士に契約書のチェックを依頼しておく方が安全と考えられます。

本サイトを運営する渡瀬・國松法律事務所に契約書のチェックを依頼される場合には、こちらのページからお願いいたします。お見積りは無料ですので、お気軽にご相談ください。

タイトルとURLをコピーしました